「かけがえのない生命・健康に貢献する医療通訳を目指して」 今井 里子さん

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それはロサンゼルスのホテルで友人の迎えを待っていた時のことでした。
複数の救急隊員がストレッチャーにアジア系の女性を乗せて搬送するのがロビーの向こうに見えました。配偶者らしき初老の男性がフロント係の問いにも答えられず慌てている様子に、いたたまれずソファから腰を上げた時、救急隊員の一人から”Are you Japanese? Yes, you are, right?”と呼び止められました。
救急車に連れていかれ、客室で倒れた女性について意識があるから質問を通訳して欲しいと言われました。彼女に名前、年齢、既往症、服薬している薬など尋ねているとどうやら糖尿病による低血糖を起こしたことが分かりました。当時、PR代理店で外資系製薬企業を顧客に成人病の検査啓発活動に携わっていたことでdiabetes, insulin shot, dialysis,など関連用語に知識があったことが幸運でした。また一分一秒を争うような状態ではなかったことも、適切な言葉を探す余裕を持てたのではないかと思います。英語が話せる家族が到着するまでフロント係、救急隊、配偶者との間を取り持ったところ、家族だけでなくホテルのフロントからも感謝された上にバーラウンジの一杯無料券を頂いてしまいました。

留学を決めたのは、これからの時代英語は必須だと思った20歳の時。
そして10年経って英語は話せるだけではダメ、何か得意分野を持たなければ、そう決意した出来事でした。

製薬会社勤務時には消化器内科、心療内科と栄養学、PR代理店に移り成人病全般と頭痛、外資系化粧品メーカーでは毛髪、化学薬品とその成分についてと日英で学ぶことができました。仕事と自身の関心事がマッチしていたので非常に充実していたように思います。目標は人気ドラマ「ER」を字幕なしで観られるようになる!と思っていましたが、出演されている俳優のインタビュー記事で「疾患名や部位の名称は外国語みたいだった」というコメントを見てあっけなく頓挫…ネイティブの人たちにとっても医療用語は未知の世界とは、医学部に進んだ同じ留学生たちを心底尊敬しました。それでもこの経験から言葉が分からなくて不安な人たちのお手伝いをしたい、特に生命や健康に関わる現場では人々の不安も大きいのではとの思いは残り、専門家と対等は無理でも疾患名や栄養素、臓器名称や化合物(薬品名)等を覚えていくこうと頭を切り替え、単語帳を作りました。最初は調べた単語をそのまま記載していましたが、今は単語帳をジャンル別に作ることで整理をしています。

さらに従来の辞書では載ってないような小さな骨や用語を理解し、少しでも語彙力を増やそう、バベルでの専攻を「医療翻訳」に変更することで、ステッドマン医学大辞典を購入しました。製薬会社であればオフィスに必ずある書籍の一冊ですが、まさか個人で購入するとは思いませんでした。課題に取り組むにあたり、側に置いておかねばならない辞書がまた増えてしまいました。
まずは馴染のある分野から取り組むべきなのか、人体模型の頭部から始めるべきなのか、元素周期表や栄養素動態から始めるべきなのか効率的な学習方法があったら、同専攻・同分野を学んでいる皆様からご意見を頂けるのではと考え今回スカラシップ業務の一環として執筆、悩みを公示する次第です。他にも役立つ書籍や辞書があればぜひ情報を共有したいと思っています。

この大辞典が蛍光マーカーで埋め尽くされる頃、使い込んだ証しに修了証が届けられることを祈る今日この頃です。

今井 里子(いまい さとこ)
1970生まれ。愛知県在住。前職は塾運営会社社員として勤務し、教室では算数・数学を担当。現在は、パソコン教室を運営の傍ら、同教室内で、小学生から成人までを対象とした個別学習教室を併設して実践中。